横浜DeNAベイスターズのタイラー・オースティン選手は、2024年8月末の時点で規定打席未達ながら打率.307、リーグ2位の22本塁打、54打点の成績を挙げている。過去2年はケガに泣かされたが、NPBでは自身初の規定打席も見据えながら、タイトル獲得にも期待がかかる。真価を発揮した優良外国人打者に、早くも来季の去就が注目を集めている。
報道では1年の球団オプションあり
オースティンは、MLBへ移籍した筒香に代わる強打者として2020年に来日。初年度はコロナ2019の影響で開幕が遅れて120試合制となったことと、オースティン自身も外野守備でフェンスに激突して欠場したことで、65試合にとどまったが、20本塁打、OPS .969をマーク。翌年は規定打席に4打席足りなかったが、打率.303、28本塁打、74打点と素晴らしい成績を残した。
2年目はコロナ2019の影響で来日が遅れ、コンディションを整えるのが難しい中で数字を残したが、10月に肉離れで離脱した。一方で2021年は東京オリンピックでUSAの中軸としてハマスタで躍動。ケガが多い選手で評価が分かれるところだったが、オリンピックの活躍もあり、MLBへ復帰するのではないかと言われた中でベイスターズと再契約した。
当ブログの上記の記事が、最近になってアクセスが増えている。オースティンの契約がいつまでなのか、球団にオプションが付いているのかなど、気になっている方が多いようだ。上記の記事を書いた際の参照元は、日刊スポーツの下記の記事。
契約の詳細、オプションが付いているかどうかは正式に発表されるものではないが、取材の中で関係者が回答したのかも知れない。日刊以外の媒体もオプションありと報じていた。
従って、オースティンは2022年から2024年までの3年契約で、2025年は球団がオプションを持っているということになる。ベイスターズが、2021年オフに結んだ契約の通りにオースティンが残留することを望めば、オプションを行使するだけで2025年も契約できることになる。問題は、そのままの契約で延長することを球団が決定するかどうか。
契約最終年に真価を発揮
オースティンは、MLBの名門ニューヨーク・ヤンキースでメガプロスペクトに名を連ねていた。高卒6年目の2016年8月13日にMLBでのデビューを果たす。この試合では、同じくメガプロスペクトだったジャッジと同時にデビューとなった。ジャッジと言えば、8月末の時点で51本塁打をマークしている現在のMLBでは最高峰のスラッガー。
7番オースティン、8番ジャッジのスタメンで、1打席目に2者連続ホームラン。史上初となる1試合2本のメジャー初打席初本塁打が達成された。ちなみにこの試合の先発投手は、田中将大だった。その後、ジャッジはヤンキースの中心打者として活躍、オースティンは2018年に死球を受けて乱闘を引き起こして出場停止となり、その後ツインズに移籍することとなった。
2019年は途中でジャイアンツ、ブルワーズと移籍が続き、定位置は確保できなかった。そうした中で、2020年から筒香がポスティングでMLBへ移籍することとなったベイスターズがオファーし、NPBへの移籍が決まった。
MLBでの実績は築けなかったが、ヤンキースでメガプロスペクトと言われた素材は間違いなく、当時のラミレス監督もオースティンを絶賛していた。2020年は、本職のファーストにロペスがいたこともあり、MLBでは数試合しかないライトを守ることになった。ロペスが退団となった後は、ソトがファーストに回り、オースティンは外野での出場を続けた。
長打力のあるバッティングと全力プレーでベイスターズファンを魅了したが、欠場も目立った。7月31日には慣れない外野守備でフェンスに激突。脳震盪を起こし、首を痛めたために1ヶ月半も離脱することとなった。9月に復帰して5号を放つと、出場65試合で20本塁打をクリアするなど実力を発揮した。
2021年も1年契約で延長すると、コロナによる来日の遅れや肉離れでの離脱はあったが、素晴らしい成績を残した。さらに東京オリンピックでの活躍も併せて国内外からの評価も上がる中で、ベイスターズが総額8.5億円の大型契約を結んだことは称賛された。
だが、この3年契約は想定以上にケガで悩まされることになる。2022年のオープン戦期間中に右肘の張りでリハビリ組へ合流。開幕しても一向に改善せず、アメリカに帰国して右肘のクリーニング手術を受けた。オールスター明けに1軍へ合流するも、右肘の問題で守備には就けず、代打での出場。
打率は1割台に終わったが、ハマスタでのCSでは第3戦でヒットを放った。シーズン終了後、今度は右肘内側側副靭帯修復手術を受けた。年に2度、右肘の手術を行うという異例の事態。靭帯再建、いわゆるトミージョン手術ではなくて良いのか、オースティンの右肘は守備に耐えうるレベルまで戻るのか、などさまざまな議論を呼んだ。
2023年は、春季キャンプに来日するも終始リハビリ。開幕後もファームでのリハビリが続いたが、交流戦前にようやく1軍合流。交流戦の開幕戦でDHとして出場し、いきなり3安打で存在感を見せると、ソトと併用でファーストの守備にも就いた。しかし、6月3日のハマスタでの西武戦でヘッドスライディングをした際に右肩を痛め、その後は交流戦でのDHと代打のみの出場。交流戦後は登録を外れて再びリハビリ。1軍出場はないままシーズンが終了し、9月29日に右鎖骨遠位端切除術を受けた。
2年で僅かに60試合出場、18安打1本塁打とオースティンにとっても、チームにとっても苦しい時間が続いた。そうした中で、2024年は右肘、右肩ともコンディションが良い状態でキャンプイン。3年契約の最終年は活躍が期待された。
来日初めて開幕戦のスタメンに名を連ねたのも束の間、4月10日に右太ももを肉離れ。5月の交流戦前に復帰すると、6月は月間MVPを受賞する活躍。オールスターでまさかの打球が顔面に当たるアクシデントもあって再び6試合は欠場したが、三冠王も夢ではない数字を残している。
年度 | 打率 | 試 | 打席 | 打数 | 安 | 本 | 点 | 振 | OPS |
2020 | .286 | 65 | 269 | 238 | 68 | 20 | 56 | 69 | .969 |
2021 | .303 | 107 | 439 | 373 | 113 | 28 | 74 | 111 | 1.006 |
2022 | .156 | 38 | 38 | 32 | 5 | 1 | 3 | 14 | .602 |
2023 | .277 | 22 | 54 | 47 | 13 | 0 | 6 | 13 | .756 |
2024 | .307 | 80 | 343 | 303 | 93 | 22 | 54 | 59 | .996 |
2年間、ほとんどをリハビリに費やして出場がなかったことや右肘と右肩を手術しており、以前のように守備に就いてスタメン出場し、その打棒を発揮できるのか不安があったが、出場さえできればNPBではレベルが違うというパフォーマンスを見せられることは十分に示せた。
これまでのオースティンを見ていれば、複数年契約だから手を抜くということはないと分かるが、あまりにもケガに悩まされた。結果として最終年に真価を発揮することになったが、チームにとっては最高年俸の選手であり、3年のうち2年近くが不在だったことをどう捉えるか。
チームには欠かせない存在
今年の開幕戦では2番に入っていたが、牧のチャンスでのバッティングが昨年までに比べると良くないことから、オールスター明けは4番で定着している。オースティンがいるといないでは打線の迫力が違い、オールスター明けの6試合でそれは身に染みて感じることとなった。
2024年のスターナイトは、和風のユニフォームで背ネームが漢字。外国人選手たちも当て字で漢字の名前が用意された。オースティンは、通訳が応援歌から連想した「蒼彗天」。いきなり最初の試合でサヨナラホームランを放ち、蒼彗天の人気を爆発させた。
オールスターにも出場し、様々な選手とフランクにコミュニケーションを取った。2021年オフには細川をアメリカに呼んで一緒に練習したり(残念ながら中日にて開花)、ファームでのリハビリ時は誕生日にケーキをプレゼントしたりとナイスガイ。復帰した藤田一也が以前23番を付けていたことを知ると、自ら背番号を譲った。味方の死球に怒りを見せたり、全力でチームの勝利を最優先するファイターは、多くのファンにも愛されている。
NPBの状況を見ると、投手のレベルが一気に上がったことと、ボールが飛ばなくなっていると見られることから、両リーグとも3割打者が1、2名しかおらず、ホームランも30本を超えるのは山川のみになりそうなペース。
加えて、外国人野手に関しては、日本で活躍できる選手が非常に少なくなっている。セ・リーグで規定打席に到達しているのは、既にヤクルトへの残留を決めたサンタナ、オスナの2人だけで、規定打席に限らなくても出場している選手自体も少ない。パ・リーグもソト、ポランコ、マルティネスの国内移籍組だけ。
そう考えれば規定打席に届いていないとは言え、三冠王も狙えるくらいの数字を叩き出す外国人選手は、どう頑張っても連れて来られるものではない。日本で5年プレーし、実績もNPBへの対応も十分にできるという9月6日に33歳を迎える選手が、もし自由契約となればNPBのチームを中心に引く手あまただろう。
ネックとなるのは、チームトップの年俸。日刊スポーツの名鑑では、2024年は4億3500万円になっている。3年契約を結んだ2021年12月よりも円安になったとは言え、総額8.5億円からしても金額が大きい。2022年は2億円、2023年は3.9億円となっていた。
球団が持つオプションは、どういう条件になっているかは分からない。一般的には延長する場合の年俸が決まっているものだと思う。3年契約をベースとすれば、2024年の年俸と大きくは変わらないのではないか。その場合に4億円~5億円が想定される。
ケガで半分も出場できないリスクはあるが、これだけの数字を残せる人気選手を手放すのは得策ではないようにも思える。3年のうち2年近く不在だったという事実があってなお、2024年の活躍を見せられると残って欲しいと思うような選手だ。
ベイスターズが、球団オプションとして規定されている年俸では割高と判断し、オプションを行使せずに自由契約となれば、ソフトバンクや読売を始めとしたチームが黙っていないだろう。年齢的にMLBが熱心に誘って来るかは微妙だが、オファーがあるとすれば2024年の年俸は上回って来るかも知れない。
もしオースティンが今後も横浜でプレーしたいという希望を持ってくれていて、ベイスターズの想いと一致していたら、単にオプションを行使するだけではなく、新たに複数年契約を結び直す可能性もある。ケガによってコストに見合ったパフォーマンスが得られないリスクはあっても、そうなるのがファンにとっては一番ハッピーだろう。
まずは2024年、勝利を最優先とするオースティンが最終的にどんな成績を残すか。最後まで無事に出場を続けられればNPBではキャリアハイのシーズンとなりそう。その上で、オースティンが2025年以降の契約をどうするか、目が離せないストーブリーグが待っている。
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