横浜DeNAベイスターズと福岡ソフトバンクホークスは5月12日、DeNAの山本祐大捕手とソフトバンクの尾形崇斗投手、井上朋也内野手の1対2の交換トレードが成立したと発表した。DeNAの35試合中24試合でスタメン出場していた正捕手の放出に、驚きの声が上がる電撃トレードとなった。
シーズン中にメイン捕手を放出
ファン歴37年目だが、いくつかベイスターズが関わるトレードのニュースを目にして来たが、驚き、衝撃度はダントツの過去イチ。10:30ごろにそのニュースが駆け巡り、この日は仕事や学業が手に付かないという人も多かったのではないか。
ドラフト9位で独立リーグから指名されたキャッチャーで、バッティングが課題とされていた中で2023年に東とのバッテリーで出場機会を得て台頭した山本。そして、2022年ドラフト1位で指名され攻守に将来有望とされる期待のホープの松尾。ここ数年、この二人をどのように起用して行くのかというのが注目ポイントだった。
松尾が指名される直前のシーズン、山本は一軍で17試合出場、打率は.107だった。当時は戸柱、伊藤光、嶺井とキャッチャーが揃っていたが、将来を考えれば扇の要と言われるキャッチャーに有望な選手を獲得することが必要だった。大阪桐蔭高で甲子園でも大活躍した松尾を一本釣りで指名し、これで将来のキャッチャーは確保できたという評判だった。
その指名が影響したのか嶺井がFA宣言し、ソフトバンクに移籍した。強固だった一軍のキャッチャー3名に空きができた。2023年シーズン、ルーキーイヤーの松尾は高卒でキャッチャー経験も浅めということで当然ながらファームでの実戦経験からスタート。空いている枠に収まったのが山本だった。
東は2020年にトミージョン手術を受け、2021年の後半に復帰。2022年は開幕投手を務めたが、手術前のような投球はできずに防御率4.62で1勝6敗だった。2023年は開幕ローテーションに名を連ねたが、6番目の登板だった。背水のシーズンで最初にバッテリーを組んだのが山本だった。そこで7回無失点と結果を残した。
チームの方針でキャッチャーを早くから分業制にしていたベイスターズで、東の日だけスタメンのチャンスを与えられるようになった。東の好投もあり、あずゆうバッテリーとして定着し始め、ヒーローインタビューで「祐大のおかげ」が定番になっていた。山本はバッティングでも目覚ましい活躍を続け、シーズン後半はメインキャッチャーとなっていた。東とともに最優秀バッテリー賞を獲得し、一気にリーグを代表するキャッチャーとなった。
2024年は3月の侍ジャパンの強化試合に出場し、シーズンではさらにバッティングで成長を見せ、3割近い打率をキープ。攻守で活躍し、ベストナインとゴールデングラブを獲得した。だが、9月に死球で右腕尺骨を骨折。チームがCSを勝ち上がって日本一を獲る中で、試合に出られなかった。オフに行われたプレミア12でも怪我の影響で選出されなかった。
2025年はプレートが入ったままプレーし、スローイングを中心としてプレーに影響もあった。前年より数字を大きく落としたが、オフにプレートを摘出する手術を受け2026年の復活とチームのリーグ優勝に向け強い意志でシーズンを迎えた。
前述の通り、5月11日の時点でチームが35試合消化した中で24試合にスタメン出場しているメインキャッチャー。その選手をシーズン中にトレードするのは極めて異例。パリーグとは言え3試合ではあるが、交流戦もこれからなので対戦がある中でキャッチャーが移籍するのは影響も大きい。
いずれ山本、松尾をどのようにキャッチャーとして使うのかという問題がやって来ると思っていたが、こういう形で山本がチームを去るというのは全く想像もしていなかった。ベイスターズファンのみならず、野球界隈でこのニュースは衝撃的として話題を呼んだ。
ドラフト9位から台頭、チームと成長
プロのチームスポーツではトレードなどでの移籍は付き物。特に生え抜きで在籍の長い選手が移籍する場合は、桑原もそうだが非常に寂しさがある。山本も今年9年目だが、ドラフト9位のいわゆる「それほど注目されていない選手」から成長を遂げ、侍ジャパンに選ばれるようなプロ野球を代表する選手に台頭して行く様子をずっと見て来た選手。当然ながらたくさんの思いがある。まずは感情的なところから書いてみる。
今年からキャプテンに復帰した筒香が離脱することになった時に、相川監督も牧と山本に対して代わりにチームを引っ張って欲しいと声をかけたようだ。相川監督は直属のバッテリーコーチとして2022年にチームへ加わり、山本が苦しんだ末に一軍で結果を残し、メインキャッチャーに成長して行く姿を一番見ていたはずで、最も影響を与えた指導者の一人だろう。
今年も7割に当たる24試合でスタメン起用したということは、今のベイスターズで一番勝てるキャッチャーだと認めているから。ベイスターズの監督には編成権はないので、これはいわゆるフロントである編成部が進めたことで、相川監督にどの程度の相談があったのかは分からない。相川監督も思うところはかなりあるだろう。
トレード発表の朝、9:30に球団から呼ばれて話を聞いたという山本。この日は予告先発が東と発表されていたので、当然マスクを被ってリードするつもりでいたと思うが、驚きの通告を受けた。
J SPORTSのXのアカウントで、山本祐大のトレードに関する囲み取材の動画がアップされている。
山本もショックを受けたことは想像に難くないが、別に引退するわけでもないし、昨年日本一で強豪のソフトバンクでのプレーに気持ちを切り替えつつあるのだろう。切り替えるしかないし、時間が経つにつれて楽しみな部分も出て来るだろう。
それでも最後の挨拶でエースの東で勝たないとという発言が出るのはチーム思いであり、キャプテンも務められるような選手であると改めて感じさせられる。
小久保監督は、すぐに山本を出場選手登録するとコメントしているようだし、6月5日からはハマスタでソフトバンクとの交流戦がある。ここでソフトバンクの黒いユニフォームを来た山本を見ることになるだろうし、もしかしたら活躍を許すかも知れない。
でも、こちらもそんなにすぐに敵として見るのは難しい。FAで勝手に行って二軍で燻っている嶺井とは訳が違うので(笑)、大きな声援は飛ぶだろう。逆に、ケガや不振がないようにしっかりと半月あまりプレーしてハマスタに再び姿を見せてもらいたい。
いずれやって来る山本、松尾問題
さて、ここからはトレードの背景を想像していく。かなりドライに書いて行くので、山本ファンやそういうのが嫌な方はここで離脱していただいた方が良いかも知れない。当ブログの読者にはあまりいないか。
冒頭にも書いたが、松尾汐恩をドラフト1位指名する時点では、山本は一軍の戦力になるかどうかさえ怪しい存在。他にもキャッチャーがいたが、戸柱、伊藤光、嶺井の次に来る選手が見えない状態だった。
個人的にも山本は肩の強さには魅力があるが、致命的に打てない印象だった。とは言え、プロ初打席でホームランを打っているし、延長戦で選手を使い切った中で最後に登場してサヨナラ打を打つなど意外と勝負強い面は見せていた。山本は打てればレギュラーを獲れる可能性はあるが、正直無理だろうと思っていた。
2022年も春季キャンプで田代コーチが祐大はかなり良くなったとコメントしていたが、シーズンに入ると振るわずに最低の数字になっていたので、難しいのだと思っていた。それだけに2023年の目覚ましい活躍に驚かされ、2024年には日本を代表するキャッチャーまで上り詰めたことは非常に嬉しかった。
反面、ファームで特にバッティングで非凡なものを見せている松尾をどうするのかという疑問がずっとあった。山本が想定以上に素晴らしい選手になり、チームとしては嬉しい誤算だったが、このまま松尾という日本の宝になりうる逸材を中途半端に一軍のベンチに置いておくのかという思いはあった。
個人的に松尾のルーキーイヤーを見て、おそらく2年後にはショートでレギュラーを獲っていると予想していた。多くの野球ファンも松尾のサブポジションについて議論していた。学生時代はショートもやっていたくらい内野も守れるし、そもそもの運動神経も良い。
ベイスターズは長年ショートにレギュラーの選手が出て来ていないし、松尾のバッティングの良さからしてキャッチャーとして出場できるようになるまで待てないだろうと思った。
だが、球団は頑なまでに松尾にはキャッチャー一本でやらせて来た。それが本人の希望なのか、フロントの大方針なのかは分からない。あくまでも山本と競わせてキャッチャーとしての出場に拘った。
2027年からはセ・リーグでもDH制が採用される。松尾のバッティングを生かす方法の一つにもなりうるが、ベイスターズには宮崎、筒香もいるので、彼らがスタメンで出る機会を増やすことにDHを使うのが順当だろう。そうなれば、松尾がスタメンで出るにはキャッチャーしかなくなる。
山本は順調に行けば2027年中に国内FAを取得見込み。もし山本もリーグトップクラスの能力を維持し、松尾が存在することでチーム全体の半数程度しか出場できない状態になっていたら、出場機会を求めてのFA移籍は十分にあると思っていた。
ただ、それは松尾が球団やファンが期待する選手へ順調に成長することが前提であり、今現在でそこまで至っているかと言うとそうではない。山本のスタメンが7割ということがそれを示している。あくまでの近い将来に起こる「可能性がある」未来であり当然絶対ではない。
そして今季、開幕ローテーションに入ったデュプランティエ、コックスが怪我で離脱。コックスは左肘靭帯の手術を受けており今季は絶望的。代わりの外国人選手の獲得は見込まれるものの、中長期として安定した先発ローテーション、投手陣の陣容を練り直す必要が出て来た。
成瀬、宮下という期待できる右打者は内野で確保できたが、宮崎の後釜という意味で打力に長けた右打者は目星が付いていない。当然、今後のドラフトでも狙って行く補強ポイントだが、今後出てくるであろう選手、チームとしての指名方針を照らし合わせた上で、そこに重点を置けるのかという問題がある。
こうした中で今できうる選手の獲得として、ソフトバンクの尾形と井上という結果になり、彼らを獲得するには山本を出さざるを得なかった。編成部門の最高責任者である木村球団社長もそういった趣旨のコメントをしている。
表向きはそうだし、間違ってはいないだろう。ただ、山本は「絶対に出せない選手ではなかった」というのは事実。そこには球団として松尾をチームを代表するキャッチャーとして使って行きたいという意思が感じられる。
戸柱がまだスタメンとして出場して松尾をサポートできること、桑原の人的補償で獲得した古市が攻守に成長を続けており、3番手のキャッチャーとして見えて来たこと、山本と同じ歳の九鬼もバッティングをメインに3番手を争うことが見えて来たことは大きく影響しているだろう。
トレードでこちらが欲しい選手を獲得するには、当然ながら相手も欲しがる選手を出さなければ成立しない。○○選手を出せば良かったと言ったところで、相手が欲しがっていなければ何も成り立たない。個人名を出して申し訳ないが、コックスの件でトレードも模索するとなった時に梶原もトレード候補に十分なりうると思っていた。相手が欲しがる選手は限られているが、相手が欲しがっても絶対に出さない選手も限られている。
日本ではこういったつい昨日までスタメンで出続けていた選手が突然トレードで移籍するというケースはかなり少ない。特に同じチームで活躍し続けることを美学とする文化もあるので、移籍に対してはかなりネガティブな感情を伴う。
愛着のある選手が敵になってしまうのは感情的に辛いしできることなら避けたい気持ちは十分に分かるが、チームが一番に考えるべきことはリーグ優勝すること。もちろんこういうトレードをしたら勝てるということではないが、戦力的なことはもちろん、選手のメンタル的な影響もあると思う。
ショックを受けてプレーに悪影響を及ぼすケースもあるだろうが、球団が本気で優勝を目指していることを感じられることでモチベーションというか、士気が上がる部分もあるだろう。あの山本祐大を出してまで変わろうとしているのかと。
トレードがどんな結果になるのか、それはやってみないと分からない。大失敗にもなりうるが、それを恐れていたらトレードなど1件もできない。トレードなんかしなくて良いというファンもいるだろうが、森原、三森、京田はトレードで来ていることを忘れてはならない。こちらだけ良い選手が獲得できて、代わりの要員は出したくないというのは通用しない。
キャッチャーということで谷繁が移籍した時の話を出している人がいるが、あれは当時の森監督との確執で移籍ありきのFAとなっていた。球団が問題ないと判断して決めたトレードとは全く異なる。加えて、他にキャッチャーがいない状況でもなく、実績十分の戸柱に加えてNPB屈指のプロスペクトである松尾を抱えている。松尾が早々に怪我などで離脱した場合だけどうするつもりなの?と思っているが、古市あたりを経験させながら回していくと思う。
放出には最適の時期と判断した可能性
最後は完全に邪推。三森は、濵口とのトレードで獲得している。濵口はご存じの通り、黄色靭帯骨化症を発症し、移籍した2025年限りで引退となっている。ベイスターズ在籍時点のメディカルチェックでその疑いは指摘されていたが、症状が出始めたのが移籍後で、検査して判明したようだ。
これについてベイスターズがどのくらい把握し、トレードの交渉の中でホークス側に伝えたのか。表立って問題にはなっていないが、そこに不備がある場合はホークス側からクレームになっていた可能性もある。そのトレードの後に成立した今回。全く無関係は言い切れないのではないか。
SNSでも書いている人がいたが、そのトレードと合わせて濵口+山本⇔三森+尾形+井上のようなバランスになったのではないかとも考えられる。
また、山本にとっては2024年9月の死球による骨折がかなり運命を変えたと思う。野球に死球は付き物だと思っているので、当ててしまった常廣にどうこうというのはない。だが、キャリアハイを残していた中で、シーズン終盤からポストシーズンの大事な試合を経験できなかったこと、井端監督の信頼度から言って選出は確実視されていたプレミア12に出場できなかったことはかなり痛かった。
そして、今年は悪送球が目立ち、ここまで盗塁阻止率は1割台。盗塁阻止は投手との共同作業であり、いくら強肩でも投手のクイックができていなければ現代野球では阻止できない。しかし、そもそも送球が良くないというケースも目立っている。
本人は否定すると思うし、実際は違う可能性もあるが、やはり右腕の尺骨を骨折した影響がスローイングに出ている可能性も高い。バッティングも2024年ならヒットゾーンに打ち返せていたような投球を打ち上げてしまうことが多い。スイングと感覚にズレがあるのではないかと思う。
数字上、2024年のキャリアハイから2025年、2026年と下がり続けているのは事実。仮に松尾との争いに敗れて完全に控えに回ってしまうよりも、言葉は悪いが今が売り時、山本本人にとっても成長の機会を得られると判断したのではないか。
逆に山本と松尾の実力が拮抗した場合は、前述の通りFA移籍する可能性もあり、そうなればその時点でのFA制度や年俸のランクによっては、今回トレードで獲得したような選手を人的補償として獲得することはほぼ不可能。そういう考えもないとは言えないだろう。
だからと言って、シーズン途中の今この時期にトレードに踏み切るというのは疑問ではある。ただ、尾形の数字を見ると今季は一軍では全てリリーフで10試合だが、ストレートのMAXは159キロ、ストレートでの空振り率25.6%は異次元。キハダやライマルで14%、松山でも8%でしかないので、もの凄いストレートを投げている。
本来なら杉山が怪我で離脱してクローザーを任せられてもおかしくないようなストレートを持っているが、それだけで抑えられるほど甘くないのも事実なのだろう。それでもロマン溢れる投手。
Xでもポストした通り、尾形は2024日シリで対戦して初めて知ったのだが、こんな投手いるの?ソフトバンクはやはり分厚いなと思った。 あの時は勢いもあって打てたが、ストレートが速い印象が残っている。本人が先発やりたいなら仕方ないが、後ろで発揮させたいところ。だが、速球派の先発も欲しいのも確か。入江の現状を考えると他から持ってくるのもやむを得ないのか。
そういう投手が獲得できるとなれば、前のめりになるのも分かるし、対価として山本を要求されても検討の価値があるのだろう。年俸などの釣り合いを取るために2対1の話になって成立した、と。
思いのほか長くなってしまったが、感情的には信じられない、寂しい、なぜ今この時期に?というのはあるのだが、背景やベイスターズに来る選手のことを考えると、そこまで問題があるトレードというわけでもないのかなと思う。
いずれにせよ、この3人の選手が移籍先で活躍し、振り返ってみてWin-Winのトレードになってくれればと思う。


コメント
山本の捕手スタメン
22年12試合(OPS.268)
23年52試合(OPS.747)
に相当するのが
松尾
24年4試合(OPS.862)
25年36試合(OPS.762)
なのだが、捕手スタメン時のOPSは山本のキャリアハイ23年を越えている。
今後、山本の24・25年並みの試合数こなした時にどうなるかは解らないが期待するしかない。
捕手育成にはどうしても試合数が必要で、山本・松尾を抱えきるのは難しくなったと想像します。
昨オフにホークスから打診があったとの報道や古市の2軍成績見ると、彼の評価が上がり短期・中期のリスクカバー出来ると判断を後押ししたかもしれません。
素人に見える捕手能力は打撃成績や捕球・送球の正確さ位なので、後は東がヒロインで育てると言ってる様にチームで後押ししてもらいましょう。
松尾は昨年、年間を通して一軍を経験しましたが、試合に出続けることはまた別だと思います。
ポテンシャルはありますし、すぐに山本のような活躍ができれば良いですが、特に守備面では試合での経験が必要なことがたくさんあるのでしょう。
今年優勝するためにトレードを敢行したというコメントと完全に乖離しますが、松尾そしてバックアップとしての古市を育成する年になりそうです。