2020年の日本シリーズは、前年と同じくソフトバンクと読売の顔合わせとなり、史上初の2年連続4連勝と圧倒的な結果でソフトバンクが日本一に輝いた。これで4連覇となったソフトバンクの強さが目立った。セ・リーグで独走して優勝した読売が、成す術なく敗れ去り、セ・リーグのレベルの低さが指摘されている。そうなのだろうか。
勢いの差は明白だった
もちろん、レギュラーシーズンや今年はパ・リーグだけ開催されたCSでの調子が、日本シリーズが開幕した途端に一気に変わることもある。しかし、それにしても10月以降の成績は歴然としており、チーム状態に明白な差があったことは事実だ。
10月9日現在のパ・リーグの順位表は下記の通り。
順 | チーム | 試 | 勝 | 敗 | 分 | 勝率 | 差 |
1 | ソフトバンク | 96 | 52 | 39 | 5 | .571 | – |
2 | ロッテ | 95 | 53 | 40 | 2 | .569 | 0.0 |
3 | 楽天 | 96 | 46 | 46 | 4 | .500 | 6.5 |
4 | 西武 | 94 | 45 | 46 | 3 | .495 | 7.0 |
5 | 日本ハム | 96 | 42 | 50 | 4 | .457 | 10.5 |
6 | オリックス | 95 | 36 | 53 | 6 | .405 | 15.0 |
ロッテとマッチレースを繰り広げていたソフトバンクは貯金13、ゲーム差なしで並んでいた。しかし、10月10日から最終戦までの勝敗は以下になる。
順 | チーム | 試 | 勝 | 敗 | 分 | 勝率 | 差 |
1 | ソフトバンク | 24 | 21 | 3 | 0 | .875 | – |
2 | 西武 | 26 | 13 | 12 | 1 | .520 | 8.5 |
3 | 日本ハム | 24 | 11 | 12 | 1 | .478 | 9.5 |
4 | 楽天 | 24 | 9 | 11 | 4 | .450 | 10.0 |
5 | オリックス | 25 | 9 | 15 | 1 | .375 | 12.0 |
6 | ロッテ | 25 | 7 | 17 | 1 | .292 | 14.0 |
ソフトバンクは12連勝で一気にペナントの行方を決めた。一方、ロッテはチーム内に新型コロナウィルス感染が広まったこともあり、貯金を10も減らして後退した。それもあったが、ソフトバンクが一気に勢いに乗ったのは成績から事実として示される。
CSでも先行は許しながらもきっちり逆転して連勝で終わっている。ロッテは10月9日の時点ではソフトバンク戦で11勝4敗1分と大きく勝ち越していたが、最終的には12勝11敗1分。辛うじて唯一の勝ち越しとはなったものの、前年からロッテはソフトバンクに勝てるチームとして認識されていたが、10月9日以降のソフトバンクには誰も勝てないような圧倒的な強さがあった。
一方の読売は、8月末から急加速。8月25日から20試合で17勝2敗1分という圧倒的な成績で、9連勝中の9月15日に早々とマジック38が点灯した。その後も順調にマジックを減らし、10月10日には貯金を最多の30に伸ばして、マジックを12としていた。
順 | チーム | 試 | 勝 | 敗 | 分 | 勝率 | 差 |
1 | 読売 | 94 | 60 | 30 | 4 | .667 | M12 |
2 | 阪神 | 95 | 46 | 44 | 5 | .511 | 14.0 |
3 | DeNA | 97 | 45 | 47 | 5 | .489 | 16.0 |
4 | 中日 | 95 | 44 | 46 | 5 | .489 | 16.0 |
5 | 広島 | 95 | 38 | 48 | 9 | .442 | 20.0 |
6 | ヤクルト | 94 | 35 | 53 | 6 | .398 | 24.0 |
しかし、ここから故障者も出た読売は失速し、マジックを1桁にした後もなかなか優勝が決まらず、後からマジックが出たソフトバンクが先にリーグ優勝を決めていた。10月30日に中日が敗れて優勝が決定したが、10月11日以降の勝敗を見ると、最下位に沈んだヤクルトと変わらない状況だった。
順 | チーム | 試 | 勝 | 敗 | 分 | 勝率 | 差 |
1 | 中日 | 25 | 16 | 9 | 0 | .640 | – |
2 | 広島 | 25 | 14 | 8 | 3 | .636 | 0.5 |
3 | 阪神 | 25 | 14 | 9 | 2 | .609 | 1.0 |
4 | DeNA | 23 | 11 | 11 | 1 | .500 | 3.5 |
5 | 読売 | 26 | 7 | 15 | 4 | .318 | 7.5 |
6 | ヤクルト | 26 | 6 | 16 | 4 | .273 | 8.5 |
セ・リーグは、ドームが2つしかなく、マツダや甲子園が土のグラウンドということもあって雨天中止が多いと想定されたため、CSは開催しなかった。そのせいもあり、優勝した後は飛び飛びの日程で、11月14日にパ・リーグCSの裏でDeNAとの最終戦が行われたものの、真剣勝負での調整が不足していたことは明らかだ。これは始めから分かっていたことではあるが、特に10月後半からのチーム状態が悪かっただけに、影響が大きかったと思われる。
ソフトバンクが強いだけでは?
ご存じのように、今年は開催されなかったが交流戦で過去15シーズン中、14シーズンでパ・リーグが勝ち越している。優勝および最高勝率も読売の2回とヤクルトの1回しかない。公式戦として真剣勝負の中で行われる試合において、これだけの差が出ると言うことは、普通に考えればパ・リーグの方が全体的にレベルが高いと思うのは当然だ。
そして、日本シリーズにおいても、2013年からパ・リーグのチームが8シーズン連続で日本一になっている。それもあって、完全に実力ではパ・リーグが上という見方が大半だ。
メジャーへ行く選手もパ・リーグの方が多いような気がするし、田中、ダルビッシュ、大谷、菊池、平野、秋山。セ・リーグもいないわけではないが、過去を考えてもパ・リーグ出身の選手の方が成績を残している印象がある。もちろん、セ・リーグもマエケンの他、古くは松井、上原、黒田などがいるのは分かっているが。
最近になっても前述のような超一流クラスの選手が移籍しても、パ・リーグの方が強いという状態は続いている。
だが、これはソフトバンクが強いというだけなのではないか?
交流戦は15シーズンで、ソフトバンクが8回優勝している。パ・リーグの8年連続日本一のうち、6回はソフトバンクだ。しかも、2017年こそ2敗したが、あとは4勝1敗か4戦全勝と圧倒して勝っている。
2018、2019年は西武が連覇しているが、CSで敗退している。短期決戦では自慢の打線を封じられていた。強力な投手陣を持つソフトバンクは短期決戦の強さがある。毎年のように主力が流出しても好成績を残す西武もある意味、最強なのかも知れないが。
そんなソフトバンクを相手に、調子を落としたままの読売が出て行ったのだから、昨年以上の惨敗になったとしても不思議はない。今年はセ・リーグで独走したのにこの結果と言われることもあるが、9月頭の状態の読売だったとしたら、ここまで負けていないはずだ。
それに、ここまでソフトバンクに対して、あらゆるところで大きく負けていると、戦う前から負けているような気持ちになるのは無理もないだろう。特に前年に日本シリーズで4連敗をして、今年は交流戦もなく戦うことになった。始まる前からマイナスだったと思う。もちろん、プロである以上、そんなことは言い訳にならないが。
2017年の日本シリーズを持ち出すのは?
ソフトバンクの最近6回の日本一のうち、唯一の2敗を喫したのは2017年のDeNAとの日本シリーズだった。
当時のヤフオクドームで連敗でスタート、ハマスタに戻っても打線に勢いがなく敗れて3連敗。崖っぷちから濵口の8回途中までノーヒットという投球があり、連勝で再びヤフオクドームに戻った。
第6戦は、ソフトバンクが1点を先制したが、DeNAが白崎のソロとロペスの2点打で逆転。8回に1点差とされたが、9回に守護神の山崎が登場し、第7戦は目前まで来ていた。しかし、内川が起死回生の同点ソロ。サファテが3イニングを投げる執念を見せ、最後は延長戦の末、サヨナラ勝ちで日本一が決まった。
近年、一番ソフトバンクを追い詰めた。それは事実として間違いではないが、あのソフトバンクに2勝したDeNAと今、言うのはちょっと同意しかねる。4年前とはチーム構成も異なるので、単純比較できるものではない。それに、善戦とは言えるのかも知れないが、ソフトバンクの4連覇のスタートを切らせているわけだから、DeNAもその責任の一端がある。第6戦をきっちり取っていれば、もしかしたらその時点でパ・リーグの連続日本一を止めていたかも知れないのだから。
2017年の日本シリーズが見直されるというのは、ちょっと好都合に考えすぎだと思う。
強大な敵に立ち向かうために
4連勝で勝負がついているのだから、ソフトバンクが強く見えるのは当然だ。読売の戦力が薄っぺらく見えたという声もあった。確かにそうだろう。今年の読売はそもそも、そんなに戦力的に大きなアドバンテージがあったわけではないが、シーズンを戦う中でうまく調子の良い選手を見極め、トレードで獲得した選手を刺激にも使いながら優勝を果たした。
だが、日本シリーズでは核になるような調子の良い選手はおらず、主軸も全く奮わずにどうにもならなかった。先発ローテも2番手に今村、4番手に畠とシーズンでは少ししか投げていない投手になるのだから、苦しい。戸郷が終盤調子を落としたこと、メルセデスが離脱していたことは痛手になった。
ただ、この4試合だけでセ・リーグ全体のレベルが低いという風潮はどうなのか。こんなに弱いチームに独走優勝させた他の5チームはもっと弱いというロジックだ。確かに、パ・リーグの方が成績を見ても投打に素晴らしい選手が多いのは確か。これまでに書いてきたように、直接対決でも数字として表れているので、反論することは難しい。
ただ、ソフトバンクが今年に限っては2位に14ゲーム差をつける圧倒的な強さで優勝しているのだから、リーグ全体がセ・リーグを上回っていることにはならない。パ・リーグのチームも勝てていない。
日本シリーズを見ていて感じたのは、長谷川が併殺に倒れて悔しがったシーンに象徴されるように、ソフトバンクには隙がほとんどないこと。チーム内の競争が激しいから、1軍のベンチに入ることが並大抵のことではない。そうして掴んだポジションを離さないためにも、結果が求められる。
そういったところが、ソフトバンクの圧倒的な強さを生んでいるのだろうなと思う。そして、パ・リーグのファンが言うように、そのソフトバンクという強大な敵に立ち向かうために、パ・リーグの各チームは必死に戦力を上げ、強くなっているのだろう。
セ・リーグのチームも、もちろんリーグ優勝というのが目標にはなってくるが、その上でソフトバンクの強さを凌駕していく力が求められる。交流戦と日本シリーズでしか対戦はないが、そこで何年も負け続けているのだから、パ・リーグのチームに限らず、セ・リーグのチームも打倒ソフトバンクを掲げて力を付けていくべきだろう。
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